
ターシャ・テューダーはアメリカの絵本作家ですが、バーモンド州の山奥でガーデニングを楽しみながら自給自足の一人暮らしを貫いたライフスタイルも人気です。今回は4人の子どもの母親として暮らしていたターシャの子育て時代から、子どもの遊びや楽しい思い出の作り方を探ってみようと思います。
ターシャ・テューダーの子育て

「ターシャの子育て」は、ターシャ・テューダー流の子育てを長男セスが語った本で、子どもと一緒に毎日を楽しむコツがたくさん詰まっています。”毎日がイベントだった”と振り返るセスの言葉に集約されるように、ターシャは子どもたちと過ごす暮らしの中で、自ら楽しみを創り出し、子育てを心から楽しんでいました。
例えば「雀のポスト」!ターシャは子どもたちのために小さなポストを作り、時々手紙を入れて楽しんでいたそうです。可愛い絵とメッセージが書かれた小さな小さなカードは、妖精の国から届いたような愛らしさ。ミニサイズの絵本を作って封筒に入れてもよさそうですね。
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ターシャは着古した布で本物そっくりの動物たちのぬいぐるみを作ったり、クリスマスや誕生日に子どもたちが喜ぶ演出を仕掛けたり、質素だけど遊び心あふれる毎日を創り出していました。それは子どもたちを喜ばせたいという気持ちももちろんありますが、自分も一緒になって楽しんでいたのだそうです。何より一瞬一瞬を心から楽しむこと、これが子育ての秘訣のようです。
魔法のようにすてきな誕生日
絵本「ベッキーのたんじょうび」は、ターシャ・テューダーの娘ベッキーの10歳のお誕生日の実話で、質素で優雅なターシャ流子育てがありありと伝わってくる絵本です。この絵本は「魔法のようにすてきな10歳のおたんじょうびのこと、一生忘れないわ」というベッキーの言葉で締めくくられているのですが、豊かな自然の中で繰り広げられる数々のエピソードは家族の幸せな思いに溢れています。
例えば、誕生日の主役ベッキーは、テーブルに並んだ花たばのプレゼントを見て贈り主を当てたり、ミントの葉と氷入りの紅茶を飲んだり、アイスクリーム作りのお手伝いをしてダッシャー(アイスクリーム器のくるくる回る部分)をなめたり、特別な体験の1つ1つに胸を躍らせます。
プレゼントの素敵な演出
たんじょうびの子どもの、テーブルの前に、花たばがならんでいます。
ベッキーのたんじょうび ターシャ・テューダー 絵と文
たんじょうびの子どもは、おくりぬしを当てるのです。おかあさんの花たばは、特別きれいだから、すぐにわかりました。キティねえさんの花たばも。
ダンにいさんは、とげのあるあざみを入れてあります。いつも、いたずら好きなダンにいさんらしい!でも、そのあと、まちがいました。
ベビーニンジンとラディッシュをたばねて、パセリでまわりをかざったのは、おとうさん。大きなひまわりを、ただ1輪牛乳びんにさしたのは、ネッドにいさんだったのです。
遊び心あふれる演出はプレゼントをより魅力的にする魔法のスパイス!高価なプレゼントを用意しなくても、喜びの種は身近なところにたくさんあることを教えてくれます。
誕生日はちょっと大人な気分
それから、ベッキーは1週間ぶんの買い物を任され、おとうさんと二人で”よろず屋さん”に出かけます。もちろん、誕生日にプレゼントをもらうのは嬉しいことですが、ちょっと大人になった気分を味わえるのも誕生日の醍醐味ですよね。
「1週間ぶんの買い物リストと、買い物かごと、赤いあさいふを、ベッキーにあずけるわ」
ベッキーのたんじょうび ターシャ・テューダー 絵と文
「ああ、おかあさん!」うれしくて、あとはことばになりません。すぐに、ベッキーは、外出用のぼうしをとってきました。
おとうさんは、若馬のブラウン・ドビンを、馬車につなぎました。
ベッキーは、少しおとなになった気分で、たづなをにぎるおとうさんのとなりに、乗りこみました。
ベッキーは誕生日にお祝いしてもらうだけでなく、おかあさんを驚かせようと三つ編みの練習をしたり、おかあさんにきれいな花たばをプレゼントを渡したり、感謝の気持ちも忘れません。
誕生日の子どもは、おかあさんに花たばをささげる
たんじょうびの子どもは、その日だけは、皿あらいもあとかたづけも、なしです。ベッキーは庭に出て、かおりのよい花たばを作ります。
たんじょうびの子どもは、おかあさんに花たばをささげるのです。(中略)ベッキーは、水につけておいた花たばのくきを、タオルでていねいにふきました。レースのドイリーの中心に、はさみで十字に切れ目をいれて、花たばのくきをさしいれ、銀紙をまき、ピンクのリボンをむすびました。
「こんなきれいな花たばを、ひとりで作ったの?ベッキー、ありがとう」
ベッキーのたんじょうび ターシャ・テューダー 絵と文
おかあさんの顔が明るくかがやいたので、おたんじょうびがいっそう、うれしい日になりました。
ほめられたり感謝されたりして芽生えるうれしい気持ちは忘れられない大切な感情。子どもにとって「モノより思い出」がかけがえのない贈りものなのです。
森のピクニック
クライマックスは森のピクニック。ベッキーにはないしょにして、村の友だちも招かれています。
キティねえさんが、花かんむりを「バースデー女王のベッキー」に、のせました。バースデー女王をとりかこんで、子どもたちの輪ができました。歓声が、あたりに、こだましました。
ベッキーのたんじょうび ターシャ・テューダー 絵と文
ベッキーは、仲良しの子どもたちと一緒に、金色の花輪をまとにして矢を射る「ロビン・フッド遊び」をしたり、スイカズラのしげみのかげで水あびをしたり、心ゆくまで楽しみました。
バースデー女王のいす
そして、極めつけは、シダと野の花とロウソクで飾られた低くて長いテーブルとバースデー女王のいす!
ブドウの葉がめいめいのお皿で、おかあさんんの手づくりサンドイッチがつみあげられています。ダン兄さんが作ったひょうたんのカップに、飲みものが入っていました。
キティねえさんの木彫りの作品の、木の小鳥たちがくちばしに、それぞれみんなの名ふだを、くわえていました。
テーブルの主役の席は、コケとシダと野の花でかざった、バースデー女王のいすでした。ネッドにいさんの作品です。
ベッキーは「まあ」と、言ったきりで、ことばが出ません。
ベッキーのたんじょうび ターシャ・テューダー 絵と文
「ベッキーのたんじょうび」のあとがきに、ターシャ・テューダーの子育ての極意は「子どもには、一生忘れないだろう思い出を贈ること」と書かれています。便利になり過ぎた今、ひと昔前ののどかな暮らしと同じようにはいかないけれど、時代は変わっても楽しい時間を子どもと共有する喜びを大切にしたいなと思います。
最後に
「楽しみは創り出せるものよ」というターシャの言葉がありますが、ちょっとした楽しみを創り出すことで子育て時代を楽しめたらいいですね。残念ながら、ターシャさんは2008年6月18日に92歳でお亡くなりになりましたが、毎日を丁寧に暮らすポジティブな生き方は人生を楽しむお手本です。慌ただしく過ぎていく毎日ですが、子どもたちはあっという間に大きくなります。小さな喜びを散りばめながら子育ての喜びを味わい尽くしてくださいね。